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裁判所は自賠責調査事務所の等級認定を変更できるのか?

2020.2.20

1 自賠責調査事務所の認定とは異なる認定が可能なのか
 以前のブログでも記載しましたが、異議申立や紛争処理機構の調停をしても適正な後遺障害が認定されない場合には、最終的には訴訟提起をして裁判で後遺障害等級を争うしかありません。
 このような場合に、「異議申立や紛争処理機構の調停をしても認定されなかった等級が裁判で認定されることがあるのでしょうか?」というご質問を頂くことがあります。
 では、裁判所は自賠責調査事務所が認定した後遺障害の等級を変更することができるのでしょうか。

2 関連する最高裁判決
 この点に関連する最高裁判所の判決が以下の判決になります。
 最判平成18年3月30日
「法16条の3第1項は,保険会社が被保険者に対して支払うべき保険金又は法16条1項の規定により被害者に対して支払うべき損害賠償額(以下「保険金等」という。)を支払うときは,死亡,後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従ってこれを支払わなければならない旨を規定している。法16条の3第1項の規定内容からすると,同項が,保険会社に,支払基準に従って保険金等を支払うことを義務付けた規定であることは明らかであって,支払基準が保険会社以外の者も拘束する旨を規定したものと解することはできない。支払基準は,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合に従うべき基準にすぎないものというべきである。そうすると,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合の支払額と訴訟で支払を命じられる額が異なることがあるが,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合には,公平かつ迅速な保険金等の支払の確保という見地から,保険会社に対して支払基準に従って支払うことを義務付けることに合理性があるのに対し,訴訟においては,当事者の主張立証に基づく個別的な事案ごとの結果の妥当性が尊重されるべきであるから,上記のように額に違いがあるとしても,そのことが不合理であるとはいえない。したがって,法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において,裁判所は,法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができるというべきである。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。」

 上記判決は「法16条の3第1項の規定内容からすると,同項が,保険会社に,支払基準に従って保険金等を支払うことを義務付けた規定であることは明らかであって,支払基準が保険会社以外の者も拘束する旨を規定したものと解することはできない。支払基準は,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合に従うべき基準にすぎないものというべきである」として、自動車賠償責任保険法第16条の3第1項が「保険会社に支払基準に従って保険金等を支払うことを義務付けたものである」とした上で、「支払基準が保険会社以外の者も拘束する旨を規定したものと解することができない」として、自賠責保険の支払基準はあくまで保険会社だけを拘束するものであると判示しました。

3 自賠責調査事務所の認定に拘束されることはない
 上記のように最高裁判所は、自賠責保険の支払基準は保険会社だけを拘束するものであると判示しましたので、裁判所が自賠責保険の支払基準に拘束されることはありません。上記の判例は支払基準に関するものですが、支払基準には後遺障害の等級も含まれると解釈することができますから、裁判所が自賠責調査事務所とは異なる後遺障害等級を認定することも可能です。
 当事務所でも以下のようなケースがありました。
 主治医の診断では「中心性せき髄損傷」という診断がされていましたが、画像所見がなかったことから、自賠責調査事務所の認定では「局部に神経症状を残すもの」として14級9号しか認定されませんでした。異議申立も行いましたが、画像所見がないという理由で等級の変更はされませんでした。
 そこで、当事務所の弁護士が主治医と面談をして、問題点を整理した上で、主治医の先生に画像所見がなくても「中心性せき髄損傷」と診断できるケースがあるというような内容の詳細な意見書を作成してもらいました。
 そして、訴訟においてかかる主治医の意見書を証拠として提出したところ、裁判所は「せき髄損傷」があったと認定し、12級13号を前提とした和解案が提示され、裁判上の和解をすることができました。
 以上の通り、裁判所が自賠責調査事務所の認定結果に拘束されることはありませんし、当事務所においても実際に訴訟で等級が変更になったケースもありますので、異議申立や紛争処理機構の調停をしても適正な後遺障害の等級が認定されなかった場合には、最終的に訴訟提起することになります。

4 訴訟実務
 もっとも、多数の損害賠償訴訟を提起してきた当事務所の経験に基づけば、裁判所(裁判官)は自賠責調査事務所の認定結果を重要視はしています。
 すなわち、裁判所は自賠責調査事務所を交通事故の後遺障害の調査及び認定をする専門機関であると考えていて、基本的には自賠責調査事務所の認定結果が妥当であると考えています。
 ですのでやみくもに訴訟をしたとしても訴訟で適正な後遺障害を獲得することはできません。上記で紹介したケースのように裁判所を納得させるだけの材料(基本的には医学的な証拠)やそれを裁判所に対して説得的に説明することが必須になります。
 従って、訴訟の段階においてもやはり交通事故に豊富な経験を有する法律事務所に依頼されることをお勧めします。