前回のブログにも書きましたが、後遺障害の等級認定は機械ではなく人が行っている以上、一定の確率でミスが起こります。
後遺障害の等級認定にミスがあると、本来認定されるべき等級よりも下位の等級が認定されたり、本来は後遺障害が認定されるべきである事案であるのに後遺障害が非該当となってしまいます。
ところが、後遺障害の認定を行う自賠責損害調査事務所が自発的にミスを検証して、事後的に等級を変更することはありません。
従って、仮に自賠責損害調査事務所の認定内容にミスがあった場合でも、被害者が異議申立てをしない限りは一度認定された等級が変更されることはなく、そのままの認定結果に基づいて示談等をすることになります。
このように、被害者が異議申立てをしない限り一度認定された誤った後遺障害の等級が変更されることはない(裁判で変更される事はありますが)という点に異議申立ての一つ目の重要性があります。
次に、異議申立てをした結果、後遺障害の等級が変更されると必ず賠償金が増額することになります。
この『異議申立てした結果、後遺障害の等級が変更になった場合には必ず(100%の確率で)受領できる賠償金が増額する』という点が異議申立ての二つ目の重要性です。
例えば、裁判基準(弁護士基準)を基準に後遺障害慰謝料を検討してみますと、12級は290万円とされているところ、後遺障害の等級が10級に変更になった場合には550万円とされています。
このように、12級だった後遺障害の等級が異議申立てをして10級に変更になっただけで、裁判基準(弁護士基準)に拠れば後遺障害慰謝料が260万円も増えることになります。
また、後遺障害が非該当であった場合には当然の事ながら後遺障害慰謝料を損害として請求することはできませんが、非該当であった後遺障害の等級が14級に変更されれば、裁判基準に拠れば後遺障害慰謝料は110万円になります。
示談交渉の場面では保険会社から裁判基準(弁護士基準)の100%の後遺障害慰謝料が提示されることは多くありませんが、それでも異議申立てをして後遺障害の等級が変更になれば必ず後遺障害慰謝料は増額することになります。
さらに、異議申立てをして後遺障害の等級が変更になれば、後遺障害慰謝料だけではなく逸失利益も増額されることになります。
例えば、肩に可動域制限が残存して「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として12級6号の後遺障害が認定された場合には、労働能力喪失率は14%となり、事故前年の年収が400万円で労働能力喪失期間が30年(症状固定時に37歳)の場合には、計算上の逸失利益は下記の通り860万8600円になります。
400万円×14%×15.3725(30年のライプニッツ係数)=860万8600円
これに対して、異議申立ての結果、後遺障害の等級が10級10号の「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」に変更された場合には、労働能力喪失率が27%となり、計算上の逸失利益は下記の通り1660万2300円になります。
400万円×27%×15.3725(30年のライプニッツ係数)=1660万2300円
逸失利益に関しては、後遺障害の等級が12級から10級になると計算上は約800万円も増額することになります。
後遺障害が非該当から14級になった場合には、損害として請求できなかった逸失利益が損害として請求できるようになります。
このように異議申立てによって後遺障害の等級が変更になった場合には、後遺障害慰謝料や逸失利益の額が増えることから受領できる賠償額全体が大幅に増えることになるのです。
上記のように「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として12級6号の後遺障害が認定された方が、異議申立てによって10級10号の「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」の後遺障害等級に変更になった場合には、最大で約1060万円も増額される可能性があります。
逆に適正な後遺障害の等級が認定されていないことに気が付かず、異議申立てをしなければ約1060万円の損失を被っていたことになるのです。
このように、異議申立てをすることによって等級変更の可能性があったにもかからず、その可能性を検討しないまま異議申立てをせずに示談等してしまった場合の損失は決して小さいものではありません。後遺障害の等級次第では損失は1000万円以上にもなるのです。
異議申立てをすることのデメリットは解決までの時間が延びるということ位で大きなデメリットはありません。
従って、多少なりとも後遺障害の等級変更の可能性があるのであれば、交通事故(特に異議申立てに)詳しい専門家に依頼をした上で、一度は異議申立てにチャレンジすべきです。
ちなみに異議申立ては何度でも可能です。
ご自分で1回異議申立てをされて等級が変更にならなかったからと言って諦めないでください。
我々の経験でも2度目の異議申立て(初回の後遺障害の認定からすると3回目の認定)で後遺障害の等級が変更になったこともあります。
但し、異議申立てをしても時効は中断されませんので、複数回の異議申立てをする場合には時効の期間に注意が必要になります。